次の道

TT

ふと思う。
どうしてあれほど、ひとつの職業にこだわり続けていたのだろうと。
なにかひとつの道を、これだと思う道を、とっとと見つけて楽になりたいと思っていたのだろう。それも、出来るだけ早い内に見つけ出したいのだと。なぜ、あんなにも焦っていたのだろう。

人生を振り返ったとき、私はどうも、ただひとつの職業とか仕事をずっと続けていくような、そんなタイプではなかったというか、そもそも始めからそういう生き方を望んでいないような……そんな感じがしてしまう。何か新しく始めても、少し経つと違う経験がしたくなるのだった。違うことをやってみたくなるのだった。

気づけば、いろんな世界に飛び込んでいた。
機械系のエンジニアとして、その世界を垣間見たこと。一日中パソコン作業が続く中、隣接する工場に出入りする機会が多くて、自分はこっちの方が合ってそうだなって常々思ったこと。そして、本当にその世界へ行ったこと。身体を動かす仕事に、私は夢中になっていった。食堂での調理補助、工場での材料加工作業、パン工場での単発アルバイト、和菓子屋、ホテルの客室清掃、イベントスタッフ、飲食店のキッチン……

どれもとことんやってみて、そうやって、ようやく気づいたこと。
それは、私はそこまで強い身体は持って生まれていないということだった。
なぜいま頃……もっと早く気づくでしょって感じだけど、でも、素直にショックだった。
身体を動かすことが自分は好きなんだって気づけたのに、肉体労働っぽいことが楽しくて仕方ないのに、ちょっとハードになると、もうもたなくなる。ツラくて仕方なくなる……
この事実と向き合うまでには、かなりの時間を要した。認めたくなかったのだと思う。いつか克服できるのだと、どこかで思っていたのだと思う。でも身体は何度でも、その事実を気づかせようとした。どんなに見ないフリしようと、どんなにごまかそうと……

いつも思うことがある。
どうしてそんなにムキになるんだろうって。自分って。
どうしても極めたくなる。
目の前の作業を。
自分なりに、いろいろ工夫したくなる。
自分が納得できるところまで、もっていきたくなる。

行く先々で、上手くなりたい!って強く思うことに出会うのだった。
その思考錯誤にどんどん夢中になっていく自分がいる。
とことんまで行く。
そして、ある時、もういいかなって思って、あっさりとそこを離れるのだった。
実際にいた期間の2倍以上の期間とか、そこに居た気がするのだった。
ものすごく濃い時間だった……そう思いながら。

そして同時に、そこには疲労困憊になっている自分もまた、いるのだった
だって、この社会では、ものすごいスピードを求められる。
それに答えようと、徹底的に質というかクオリティも追及しながら、スピードも追及していくという、もう滅茶苦茶に疲れることを、私はいつも始めてしまうのだった。

自分のことは、自分が一番よく知っている。
そう思っていた。
でもあの時、あの場所で、私は自分が知らなかった自分を知った。
ちょっとした驚きだった。
「えっ、自分ってこういう人間だったんだ」って。

私の中にあった思い。
どうしてもそこは譲れなくて、曲げたくない……私はこう在りたい。
そんな強い思いが、自分の中にあることに気づかされた。
それは、たまたま始めたホテルの客室清掃をしていた時だった。

私はこの仕事が面白かった。
ベッドメイキングをはじめて教えてもらったとき、すぐに思った。
上手くなりたい!
スイッチが入った。そこからはもう、上手だなって思う人のやり方を見て、それを自分の現場で試し続けた。清掃業務にも興味が湧いてきて、客室全体の掃除やアメニティやタオル類の補充も覚えていった。チェッカー業務も教えてもらった。最終的にゲストに、どのような状態で客室が引き渡されるのかどうしても知りたくて。
どれもこれも最高に面白かった。すごくワクワクした。夢中になって走り続けた。
私は、徹底的にクオリティを追求していた。
自分が納得できるものを、この手から生み出したい……
その一心で走り続けていた。

ただ、客室清掃という仕事は、とにかくスピードだった。一にも二にもスピードだった。
会社の方針は、日に日にその要求を増していった。それは、より少ない人員で、より一人当たりの負荷を大きくし、なおかつ、一人ひとりがもっと高速で動けというものだった。

いろんなことがあった。
こんなやり方はおかしすぎると思ったから、私はいろいろ提案していた。クオリティを大切にして、なおかつ処理数も確保できる方向を提案し続けた。でも現場の責任者とは、方向性の違いを感じていくばかりだった。
私が一番イヤだったのは、クオリティを一切考慮せず、所要時間しか見られないことだった。たったひとつの基準、「スピード」でしか自分の仕事を判断されない。それが悔しくてしょうがなかった。

表情がどんどん険しくなっていく自分がいることに気づいた。もうこれ以上、ここにはいられないと思った。自分の思いを押し殺し、スピードだけを重視して、この手から適当なものを生み出し続けるくらいなら、最初からやらない方がいいと思った。自分が客なら、こんな仕事をされた商品なんか絶対に買いたくないと強く思った。

私が目指した方向性は、しっかりと時間をかけ、それでも数をこなしていくことだった。その方法を、そのアイディアを、思考錯誤の中からどうしても見つけ出したかった。この職場環境を根本から変えたかった。そう強く思ったのは、この現場の、この仕事のやり方は明らかにおかしすぎると思ったからだった。一日中、馬車馬のように走り続けていなければ到底終わらない業務量。業務分担の仕方に問題があり、特定の業務担当者の体力的な負荷がものすごく大きくなっていること。二人作業であればもっと楽で、クオリティも維持でき、トータルで見た所要時間も短縮できるはずの業務を、一人作業にしてしまっていること。それによって全く余裕のない状況が生まれ、とにかく早く終わらせて次へ行くために、おもいっきり手を抜かなくてはいけなくなっていること。
現場は、それはひどいものだった。
生み出される商品のクオリティも。
そこで働く人たちの人権の無さも。
私は、この労働環境を、この仕事のやり方を、どうしても改善していきたかった。
最後の最後まで踏ん張ったけど、自分のアイディアを形にすることは出来なかった。
最終日は、もう思い残すことがないくらい、思う存分やった。満足だった。

夢中になって走り続けた。
とことん思考錯誤し続けた。
とことん考え続けた。
でもだからこそ、自分の奥深くにあった思いにも、気づくことになったのかもしれなかった。この目ではっきりと、見ることになった。
「より良いものをこの手で生み出したい。」
「徹底的にクオリティにこだわりたい。」
「自分が納得できるまでやっていたい。」
「自分が納得できるものを、この手から生み出したい。」
「自分が感動できる仕事をしたい。」
「スピードだけが仕事じゃない。」
そう強く思う自分が、そこにはいた。
そしてその思いを、おもいっきり表現できない環境にいるだけで、ここまでツラくて苦しくなっていくのだと。こんなにもストレスを感じていくのだと。それを、身に染みて感じていた。

もっと違う場所に行きたい……
そう思った。
もっとなにか、自分の思いを大切にできる場所にいたい……
自分のこの個性を、おもいっきり表現できる場所にいたい……
それができる環境にいたい……

次の道。
それは、こうして湧き上がってくるのかもしれないと思った。
その時、その時を、真剣に生きることで。
次が、こうして内側から、突き上げてくるのかもしれないと思った。

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好きなことは、妄想(考えること)と文章を書くこと。

空気の匂いを感じること。

ひとりの時間をこよなく愛する男の子。
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