ショートカット
「いいと思う。」
思いがけないその言葉に、私はとっさに何と返したらいいのか分からなかった。
ただ笑いながら、その場を後にしただけだった。
でも徐々に、胸のあたりが熱くなっていくのを感じていた。
女の子のショートカットに憧れていた。
ショートカットが似合う女の子が好き。
多分それもあって、そしてなぜか私も、その髪型になってみたかった。
なぜだろう……
どうしてもなってみたい。
妹に頼んだ。
「髪切ってほしい。ショートカットに。」
兄の変わった言動におもしろがって付き合ってくれた。
自分のイメージを一生懸命伝えた。
完成した時、やったぁ!って思った。
心がぴょんぴょんと跳ねているのが分かった。
実はどうしてもやってみたいことがあった。
耳に髪をかける仕草……
それがどうしてもやってみたかった。
指に髪が触れた瞬間、いままで感じたことのない思いがした。
自分自身の動作に、胸がキュンとした。
特に反対側の手を使うとき……
自分自身に恋してしまうんじゃないかと思うくらいだった。
自分のことが大好きになる動作なんじゃないかと思った。
あれから、二日、三日経った頃だっただろうか。
いつものように出勤して、そろそろ仕事を始めようかなと思っていた時、ふいに後ろから声がした。
「○○さん、髪切ったんだ!」
そして次の言葉を、一生忘れないと思う。
「いいと思う。」
相手の真意は分からない。でも、それでもよかった。
どうしてか、すごく嬉しかった。
自分が好きでやったこと。
特に周りの目も気にせず、ただシンプルにやってみたかったことをやっただけ。
誰かに何かを言われるとか、思ってもみなかった。
それも、「いいと思う」って声をかけられるなんて……思ってもみなかった。
もし変だったとしたら、そしたら、触れることもないかもしれないけど……
でも、そういうことじゃなく、もっと何か別のこと……
何かもっと違うことが彼女には見えた?感じた?
だから……?
後先考えず、やりたかったことをやっただけだった。
気づいたら、やっていた。
なぜかやってみたい!
その「思い」を「こころ」を彼女は感じたのだろうか……
ただシンプルに「いいと思う」と言った。
他人の挑戦を、チャレンジを、「いいね」と言えた。
その言葉に、私はどこか自分をまるごと肯定してもらえたような、そんな思いがした。
何か温かいものに包まれた気がした。
思えば、妹もだ……
兄の突飛な言動をそのまま受け入れてくれていた。
女性って、どうしてこんなにも柔らかいんだろうって思う……
人の「思い」とか「こころ」に、当たり前のように寄り添うことを大切にしようとする。
色んなことを敏感に感じ取ろうとする。
私が本当に憧れたのは、ショートカットという女性の髪型だったのだろうか。
私が憧れ、そして本当に触れたかったのは、何かそういう、目に見えない柔らかさ、繊細さ、なのかもしれなかった。

