息抜き

職員室のチョコレートケーキ

TT

中学生の頃、私は音楽の授業というものが好きじゃなかった。
なんだか、その時間がすごくイヤだった。
みんなの前で歌うこと自体がイヤだったし、楽器も得意じゃなかったから、なにかもうその時間が、とてつもなく苦痛だった。

ある日、私はとうとう抑えきれなくなったのだろう。
ものすごい顔をしていたのだと思う。
ものすごくイヤな顔でもしていたのだろう。
先生からその場で、その態度は何だ?的なことになり、授業が終わった後、職員室に来るように言われた。

普段は無口で、優等生的な振舞いをしているような人間が、まさか先生に立てつくような、歯向かうような態度を見せたのだった。
何かあったのだと思う。
何か自分の中に触れるものがあって、積もり積もった思いがその日、おもいっきり顔に出たのだと思う。

小さな音楽室だった。
クラスのみんながいる中、けっこうな剣幕で怒られた気がする。
その場では終わらず、職員室にまで来るように言われたことで、その瞬間、私はいろんな覚悟を決めていた。
どんな結果になったとしてもいい……
成績に影響が出たとしても。親呼び出しになったとしても……
ここまで来たのなら、ここまで来てしまったのなら、もう潔く自分の本音を話してみようと思った。ずっと言いたかったこと、ずっと心の中で思っていたこと。それをもう包み隠すことなんかせず、おもいっきり言葉にしてみようと思った。

授業が終わりを告げた。
私は職員室へと向かい、ゆっくりとドアを開けた。
その瞬間、私の目は一点に注がれていた。
山積みの書類の上。
そこに、なんだかおいしそうな気配が漂っている……
真っ白のプレート。その上に、ちょこんとのったチョコレートケーキ。
1、2回ほどつつかれた後だったのだろう。
ちょっと慌てた様子の先生と、食べかけのチョコレートケーキを前に、私はその場でキョトンとなった。

緊張の面持ちで入っていったはずの職員室。
いろんな覚悟を決めて開けたはずの扉。
でも私の目に飛び込んできた光景は、あまりに意外なものだった。
その瞬間、私の表情は緩んだ。
多分、口元は緩んでいた。そんな気がする。
だって、私は甘い物が大好きだった。
そしておそらく先生もまた、甘い物が好きな人だったのだろう。

その後、どんな会話をしたのか、覚えていない。
職員室にどのくらいの時間いたのかも、よく覚えていない。
ただ、授業中のときのあの剣幕からは考えられないような、すごくあっさりとした感じで、気づけば話が終わっていて、拍子抜けした気分のまま、教室に戻ってきたことを覚えている。

あれは何だったのだろうか……
本当はもっと何か言われたはずなのに、私の記憶が美化されでもしたのだろうか……

大キライだった音楽の授業。
そして、その日は何かがあった。
もう隠すこともせず、おもいっきり不満を表していた私。
呼び出しを受け、覚悟を決めて向かって行った職員室。
でも、そこで目に飛び込んできた光景に、私は一瞬で緊張を解かれていた。
「えっ、先生!?」
みないな表情に、私はなった。
たぶん、なっていた。

甘いものを前にして、大好きなものを目の前にして、どうしたって固い表情のままではいられなくなる……ピリピリとした空気ではもういられなくなる。それが両者の間で起こっていたということなのだろうか……
それとも別に、先生の中ではそれほどの出来事ではなかったけれど、みんなの手前、あとで職員室に来なさいと言うことにしただけだったのか。

人生で初めて経験した職員室への呼び出し。
それは人生で初めて、「先生」という立場の人間に不満をぶつけた瞬間でもあった。
やり方に問題はあった。
でも、自分の気持ちを、その本音を、もう隠すこともせず、気づいたらぶつけていたその人は、何か私とどこか似た人だった。

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好きなことは、妄想(考えること)と文章を書くこと。

空気の匂いを感じること。

ひとりの時間をこよなく愛する男の子。
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