唐突な告白
中学3年の時だった。
朝、教室に着くなり、男友達が駆け寄ってきた。
「○○のこと、気になっている人がいるみたいだよ」
同じクラスのある女の子が、私と話したがっているみたいな、私のことが好きみたいな、そんなことを伝えてきた。
そして、「〇〇はどうなの?」みたいなことも同時に聞かれたのだった。
「〇〇は、その子のことをどう思っているの?」
その答えが欲しいのだと。返事を待っているのだと。
その伝言というか、仲介というか、橋渡し的なことを、その男友達はどうも頼まれたようだった。
女の子が、自分のことを好きだと言ってくれている。
そんな状況を、私は想像すらしたことがなかった。
こういう聞き方があるなんてことも衝撃的だった。
私が瞬時に感じたこと。それは、戸惑いだった。
どうしたらいいんだろう……一体何が起きているんだろう……
嬉しいとか、ありがとうっていう気持ちよりも、そっちの方が大きかった。
どうして、いきなりこんな展開になってしまっているのだろう……
どうしてもっと軽いところから、もっと何かこう、徐々にというか、少しずつ距離を縮めていくみたいな、そんなんじゃないんだろう……
私には、あまりに唐突に感じられていた。
これまで会話したことがあったかどうかもよく覚えていない。目が合ったことがあったかどうかもよく覚えていない。何かそれらしい雰囲気を感じたことがあったかどうかもよく覚えていない。そんな人から突然、「私のこと、どう思ってる?」と聞かれたような気がした。
なんと答えていいか、よく分からない……
それが正直な気持ちだった。
自分は何を求められているのだろう?
彼女は何を求めているのだろう?
デートがしたいってこと?
一緒に帰りたいとか、おしゃべりしたいってこと?
それとも彼女自身としては、ただ「好き」っていう気持ちがあっただけなのに、周りが勝手に動いていただけだったのか。「気になっている人いる?」みたいな、「好きな人いる?」みたいな友達どうしの何気ない会話の中で、「その人がどう思っているか聞いてみたら?」的な、「まずは自分の気持ちを伝えてみたら?」的な流れになって、周りがあれこれと積極的に動いていただけだったのか。本人が意図していなかったステップにまで一気に周りが進めて行ってしまっただけだったのか……
私は返事を先延ばしした。
その後どうなったのか、いまではよく思い出せない。
自分は友達から始めたいと思っていると、ちゃんと伝えることができたのか、何も伝えることができずじまいだったのか……
卒業式の日、二人で写真を撮った。
彼女が声をかけてくれたのだった。
「一緒に写真撮ろう!」って。
月日は流れ、大人になり、ある日、会社の同期との会話の中でふと、その話になった。
同期はこの話を聞くなり、「あり得ない」という顔をした。
冷たい人みたいな、薄情者みたいな、その子が可哀そうみたいな。
私が彼女の立場だったら、どうだっただろう。
好きっていう気持ち。
その自分の気持ちに、やっぱり、どこまでも正直でいたと思う。
何か気になって仕方ない人。気づいたら何度も見ている人。
その存在を、その雰囲気を、感じているだけで、胸が熱くなった。
内側から、何か力が湧いてきた。
今日もあの人がいる。近くにいる。
それだけで、気持ちがぱっと明るくなるのだった。
毎日が何かすごく待ち遠しいものになるのだった。
「一緒に写真撮ろう!」
そう言ってくれた彼女の目。
そこには何の迷いもなかった。
彼女は、あの時感じていたのだろうか。
私がようやく、大人になってから感じることができたものと同じものを、彼女はあの時、体験していたのだろうか。
たとえ、振り向いてくれなくてもいい。
ただ自分が好きなんだっていう、この気持ち。
この自分の気持ちに、自分はただ正直でいたいのだと。
こんなにも言葉にできないものを、込み上げてくるものを感じている自分がいる……
それが、自分はすごく嬉しいのだと。
こんなにも、温かい気持ちになれた。
こんなにも、愛おしいっていう気持ちを体験することができた。
それが、私の人生にとって、ものすごくかけがいのないものだったのだと。
本当に、ありがとう……
それを、どうしても伝えたかった。
それだけを伝えたかった。
あなたの存在そのものが、私に、生きる勇気と感動を与えてくれていたのだと。
そう伝えたかった人がいた。
そんな出会いが、何度もあった。
学校生活に馴染めなくて、いつも苦しくて、生きること自体に相当な疑問を抱いていて、それでも自分を歩かせ続けるしかなかったあの頃。いつも怖い顔して歩いていた。何も話しかけないでオーラをバンバン出しまくっていた、あの頃の自分。そんな人間が、彼女の目にはどう映っていたのだろう。
人との関わりそのものを、避け続けて生きていた中学生の頃の私。
あの頃のままでは、体験することはできなかった数々のこと。
それを少しずつ手にしてきた自分がいた。
心の奥深くでは、人との関わりをこんなにも求めていたんだ……
そのことに、いまようやくはっきりと気づいた気がした。

